膵α細胞にはSGLT-1が発現しGlucagon(Gcg)分泌に関与するSGLTの特異的基質であるMethyl α-D-Glucopyranoside(αMG)をDIOマウスに腹腔投与(i.p.)すると血中GcgおよびGLP-1濃度が上昇します.また慢性的にi.p.すると体重・摂餌量が減少し,糖代謝・脂肪肝が著明に改善します.体重・摂餌量減少効果は経口投与では認められず,SGLT-1特異的阻害剤で完全にキャンセルされます.さらに肝臓特異的Gcg受容体KOマウスは代償的にα細胞過形成となりますが,αMGをi.p.するとGcgと共に血中GLP-1濃度が大幅に上昇し,α細胞由来と考えられました.一方で慢性投与による効果はキャンセルされず,大幅に増加したGLP-1 の影響が考えられました.また野生型DIOマウスにExendin 9-39を併用すると αMGの効果は部分的にキャンセルされました.これらの結果からαMGの代謝改善効果は腸管以外のSGLT1を介しておりGLP-1の他,複数の因子の関与が示唆されると考えられ,さらに解明をすすめています.
亜鉛トランスポーターは生体内で様々な内分泌代謝を制御することが分かってきましたが、その機序は不明であるものが多いのが現状です。たとえば、亜鉛トランスポータのひとつであるZIP13の失調は、ヒトでは脊椎手掌エーラス・ダンロス症候群(EDSSPD3)を惹起し、結合組織の脆弱性や筋力低下を呈しますが、病態機序は不明のままです。また、全身性Zip13遺伝子欠損(Zip13-KO)マウスは、結合組織の脆弱性を示しますが、詳細な検討はされていません。そこで、遺伝子改変マウスを用いて、EDSSPD3患者の筋力低下の機序解明をすすめています。
後日掲載予定
有機酸・脂肪酸代謝異常症は、酵素異常によって異常代謝産物の蓄積あるいは下流のエネルギー産生障害不全により、肝臓、筋肉、心臓および神経に障害が引き起こされる疾患であります。新生児マススクリーニングにより早期診断は可能となりましたが、感染症などを契機に急激な代謝クライシスを発症して致命的な経過をたどったり後遺症を残したりする危険があります。これまでの線維芽細胞を利用した研究では、患者の全身的な評価を行うことは可能でしたが、障害がおこりやすい臓器に特異的な病態解析を行うことは困難で、治療法の開発に制限がありました。本研究では、まず患者由来iPS細胞を樹立し、病態の主座である肝臓・心筋・神経の細胞に分化誘導を行った後、発熱や感染症なとの影響を標的臓器レベルで明らかにすることにより、新規治療法の開発へつなげることを目的としています。
甘味受容体は舌の表面に発現して味覚を感知するだけでなく、視床下部、膵β細胞、消化管上皮や気道上皮など、身体の多くの部位に発現していますが、その生理的意義についてはほとんど解明されていません。また、この受容体はブドウ糖やショ糖のほか、人工甘味料やアミノ酸など、非常の多くの物質がアゴニスであるというユニークな性質をもっています。消化管内分泌細胞においては、甘味受容体を介してglucagon-like peptide-1(GLP-1)分泌が促されることが分かっています。このGLP-1はインスリン分泌を促すホルモンであり、糖尿病治療薬として臨床応用もされていますが、GLP-1の産生や分泌機構はこれまで明らかになっていないことが多く、GLP-1そのものの分泌を促す薬剤は開発されていません。
私どもはこれまでにヒト消化管内分泌細胞HuTu-80において、甘味受容体を介してGLP-1分泌が促進されることや、アゴニスト毎にその分泌促進作用の異なることを明らかにしています。本研究は消化管内分泌細胞を用いて、まず甘味受容体を介するGLP-1分泌促進機構の詳細な解析を行い、標的分子を特定することにより、薬剤の開発に繋がる検討を行うことを目的としています。
1型糖尿病発症に関わる免疫学的/腸内細菌学的要因の解析
インスリンポンプメンテナンスの重要性に関する研究
1型糖尿病患児のサマーキャンプ参加による精神的身体的変化に関する研究
小児糖尿病サマーキャンプに参加した群馬大学医学部学生ボランティアの生活習慣と健康に関する意識変化の検討
インスリンポンプ療法を行う小児1型糖尿病患者やその家族の治療や療養生活に対する考えと医療従事者の関わりについての分析研究
NGSを用いた希少難病家系の網羅的ゲノム解析の追加研究
日常診療下でヒト成長ホルモン(hGH)治療を受けている患者を対象とした多国籍,非介入前向きコホート研究
内分泌代謝疾患患者とその家族の移行期医療に関する多施設共同分析研究
小児期発症1型糖尿病の治療・予後改善のための多施設共同研究(第6コホート)
など
微小変化型ネフローゼ症候群は小児の主要な腎疾患の一つですが、その病因は未だ解明されていません。本研究は蛋白尿惹起液性因子を産生すると考えられる末梢血免疫担当細胞をターゲットとして、ヘルパーT(Th)細胞とB細胞を分離し、疾患の活動期、寛解期及びコントロール群間で異なるエピジェネティック修飾を受ける遺伝子と、そのエピジェネティック修飾により発現の制御を受ける遺伝子を探索することで、疾患発症の素因や蛋白尿惹起液性因子、または、その産生に関わる因子を解明すること目的としています。DNAメチル化アレイを用いたこれまでの検討で、ナイーヴTh細胞で疾患活動性に伴ってDNAメチル化の程度が変化する遺伝子や、健常群とは有意に異なるDNAメチル化制御を受けている遺伝子をみいだしました。これらの遺伝子が疾患活動性のバイオマーカーになり得るか検討し、疾患発症に関わる機序の解明を目指して研究を行なっています。
微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)と巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は特発性ネフローゼ症候群(INS)の主要な疾患です。何らかの液性因子が糸球体血管係蹄壁の透過性を亢進させ蛋白尿を惹起すると考えられてきましたが、この因子はいまだ同定されていません。私たちは、糸球体上皮細胞基底膜面に発現する接着因子に着目して液性因子のスクリーニングや発症時にINSの鑑別を行うことを目的に研究を行っています。
糸球体の血管係蹄壁は血液から原尿の濾過において重要な役割を担っています。この、高度に分化した濾過障壁は糸球体上皮細胞(ポドサイト)、基底膜、糸球体内皮細胞の3層から構成されており、上皮細胞と内皮細胞の連携は正常な濾過機能の維持に重要です。各種の糸球体腎炎で見られる濾過障壁の破綻の原因や治療法を探索するためには糸球体血管係蹄壁構造を形成したモデルの構築が必須です。これまでポドサイトや糸球体内皮細胞の細胞株、実験腎炎動物モデルを利用した研究がなされて来ましたが、in vitroでの糸球体血管係蹄壁モでルは樹立されていません。本研究ではマイクロ流体デバイスを用いて糸球体係蹄壁のモデルをin vitroに確立し、糸球体濾過及びその破綻のメカニズムの解明や新規治療法の開発を目的に、理工学府の佐藤記一先生と共同研究を行っています。
(1)局所麻酔下に超音波ガイド下経皮的腎生検を受ける小児患者に対する検査前プレパレーション介入の効果についての検討
(2)Joubert症候群の遺伝子解析と腎予後の検討
(3)その他、学会主導のコホート研究への研究協力
・日本膜性増殖性糸球体腎炎/C3腎症コホート研究
・PLEASURE-J study (若年SLE登録研究)
・ミトコンドリア病関連腎疾患の全国調査
・小児期発症ネフローゼ症候群患者に対してリツキサン®投与後に発現した低ガンマグロブリン血症に関する調査研究
など
《代表的論文》
・Takagi Y, Miura K, Yabuuchi T, Kaneko N, Ishizuka K, Takei M, Yajima C, Ikeuchi Y, Kobayashi Y, Takizawa T, Hisano M, Tsurusaki Y, Matsumoto N, Hattori M. Any modality of renal replacement therapy can be a treatment option for Joubert syndrome. Sci Rep. 2021 Jan 11;11(1):462.
・Kobayashi Y, Desideri S, Foster RR, Jaulent AM, Thomé FP, Welsh GI, Saleem MASaleem MA, et al. Cilengitide Inhibits αvβ3 Integrin Activation and Functional Changes in Human Podocytes Exposed to Focal Segmental Glomerulosclerosis Disease Plasma. 12th International Podocyte Conference Abstract Book, 2018
・Kobayashi Y, Takizawa T, Aizawa A, Arakawa H. miR886 precursor associates with minimal change nephrotic syndrome regarding DNA methylation and gene expression. Jp J Pediatr Nephrol 31:104, 2018.
Kobayashi Y, Aizawa A, Takizawa T, Igarashi K, Hatada I, Arakawa H. Changes in DNA methylation in naïve T helper cells regulate the pathophysiological state in minimal-change nephrotic syndrome. BMC Res Notes. 2017 Sep 15;10(1):480.
・Saleem MA, Kobayashi Y. Cell biology and genetics of minimal change disease. F1000Res. 2016 Mar 30;5:F1000 Faculty Rev-412.
・Kobayashi Y, Saleem MA. Hemopexin in Minimal Change Nephrotic Syndrome. In Kaneko K editor. Molecular mechanisms in the pathogenesis of idiopathic nephrotic syndrome. Tokyo: Springer Japan; 査読有pp13-23, 2016
・Kobayashi Y, Welsh GI, Saleem MA. Utility of total internal reflection fluorescence microscopy in evaluating integrin activation expressed on basal side of human podocyte cell line. Pediatric Nephrology 31:1833, 2016
・Kobayashi Y, Aizawa A, Takizawa T, Yoshizawa C, Horiguchi H, Ikeuchi Y, Kakegawa S, Watanabe T, Maruyama K, Morikawa A, Hatada I, Arakawa H. DNA methylation changes between relapse and remission of minimal change nephrotic syndrome. Pediatr Nephrol. 2012 Dec;27(12):2233-41.
・Tsurusaki Y, Kobayashi Y, Hisano M, Ito S, Doi H, Nakashima M, Saitsu H, Matsumoto N, Miyake N. The diagnostic utility of exome sequencing in Joubert syndrome and related disorders. J Hum Genet. 2013 Feb;58(2):113-5.
・Ikeuchi Y, Kobayashi Y, Arakawa H, Suzuki M, Tamra K, Morikawa A. Polymorphisms in interleukin-4-related genes in patients with minimal change nephrotic syndrome. Pediatr Nephrol. 2009 Mar;24(3):489-95.
・Kobayashi Y, Arakawa H, Suzuki M, Takizawa T, Tokuyama K, Morikawa A. Polymorphisms of interleukin-4–related genes in Japanese children with minimal change nephrotic syndrome. Am J Kidney Dis. 2003 Aug;42(2):271-6.
・Ogawa T, Tomomasa T, Hikima A, Kobayashi Y, Nakano K, Fukabori Y, Morikawa A. Developmental changes in cyclooxygenase mRNA expression in the kidney of rats. Pediatr Nephrol. 2001 Aug;16(8):618-22.
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は出生直後や新生児期から発症し、主に睡眠時に無呼吸や低換気を特徴とする疾患です。我々は2014年からCCHSの全国的な疫学調査を開始し、発症時期や重症度、治療経過、多彩な合併症、発達予後など多岐にわたる視点からCCHSを解析しました。そして生後3か月未満での気管切開が発達予後を改善する可能性があることを見出しました(BMC Pediatrics 2020)。CCHSにおいて発症早期からの適切な呼吸管理が発達予後に大きく影響することを示す形となりました。
現在の医療においては根治治療が確立していない難治性の神経疾患における新規治療の開発を他施設と共同して行っております。
《代表的論文》
・Tomomi Ogata, Kazuhiro Muramatsu, Kaori Miyana, Hiroshi Ozawa, Motoki Iwasaki, Hirokazu Arakawa. Neurodevelopmental outcome and respiratory management of congenital central hypoventilation syndrome: a retrospective study. BMC Pediatrics 2020:20:342
・緒方朋実,苛原香,村松一洋,荒川浩一.先天性中枢性低換気症候群の疾患像と発達予後への影響因子の検討. Human Developmental Research. 2017:31:29-36
・苛原香,緒方朋実,小沢浩,大瀧潮,石塚丈広,有本潔,木実谷哲史,荒川浩一,村松一洋.本邦における先天性中枢性低換気症候群の精神発達予後と呼吸管理.脳と発達2015:47:343-347
・村松一洋,村松礼子, 澤浦法子, 緒方朋実, 八木久子, 中嶋直樹,萩原里実, 小山晴美, 荒川浩一. 先天性中枢性肺胞低換気症候群の小児慢性特定疾患登録データによる疫学的動態の検討. 日本小児呼吸器疾患学会雑誌 2012
小児がんは全国で年間2000人程度が発症しますが、それぞれの疾患自体は数が少なく、全国のほとんどの大学病院やこども病院が日本小児がん研究グループ(JCCG)という臨床試験グループに所属し、多くの疾患において日本全体での臨床研究として治療が行われております。これにより全国のどの施設でも均一な医療が提供できるシステムが構築されただけでなく、患者さんから提供された臨床データや血液・腫瘍サンプルを集約化することで、臨床研究と基礎研究は飛躍的に向上してきています。
近年は次世代シークエンサーという解析機器の登場により遺伝子解析技術が飛躍的に向上し、古典的な手法では同定が困難であった様々な遺伝子異常が発見されています。分子生物学的な病因の特定だけでなく、一部の新規遺伝子異常は癌の予後を予測する上で極めて重要な役割を果たすことが分かってきています。また、これらの解析データを元に特定の遺伝子をターゲットした新規の抗がん剤(分子標的薬)も開発が盛んに行われており、これらの結果は徐々にではありますが臨床現場に還元されつつあります。
一方で、小児AMLは比較的稀な疾患であることから(全国で約100人/年発症)、長期生存率は60-70%程度と未だ十分な治療成績を得ることができておらず、また遺伝子解析も成人のAMLほどは進んでおりません。我々はJCCGから供与された臨床サンプルや臨床情報を用いて次世代シークエンサーやマイクロアレイによる小児AMLの遺伝子解析を行い、予後因子の同定や治療標的となり得る遺伝子異常の探索を行なっております
AMLや急性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、その他の固形腫瘍の発症原因として知られている343個の遺伝子を対象とし、次世代シークエンサーを用いたパネルシークエンスにより、塩基置換や挿入、欠失、コピー数異常を網羅的に解析しています。また、RNAシークエンスにより新規の融合遺伝子の同定や遺伝子発現異常の解析を行なっています。同定した遺伝子異常と、臨床データをつき合わせることで、各遺伝子異常が持つ臨床的意義を検証し、既存のリスク層別化治療のブラッシュアップを目指しています。また、一定の頻度で検出される遺伝子異常については他の小児AML集団で再現性があるかどうかを確認するとともに、機能解析へつなげることを目標としています。一部の遺伝子異常については成人AML検体でも比較検証することで、小児と成人での分子生物学的背景の差異の研究も進めています。
小児AMLは予後良好因子であるt(8;21)(q22;q22)/RUNX1-RUNX1T1,inv(16)(p13q22)/CBFB-MYH11といった染色体転座や、代表的な予後不良因子であるFLT3-ITDなどの遺伝子変異でリスク層別をされている、非常にヘテロな疾患群です。これらの代表的な予後因子以外にも、近年の次世代シーケンサーを使用した解析によって、新規の予後因子が同定され始めています。しかしながら小児AMLはそもそも遺伝子変異の割合自体が少ないため、ゲノム解析のみではその予後を正確に把握することは困難です。今日、成人AMLにおいてそのDNAメチル化パターンがAMLのサブタイプ、核型リスクと相関することが報告され、さらに特定の遺伝子発現とDNAメチレーション、5-hmcにより測定された全体のメチレーションが予後に関係しているという報告がなされています。そこで我々は小児AML患者の予後予測因子として全ゲノムDNAメチル化解析に注目し、イルミナ社のInfinium MethylationEPIC BeadChipを用いた解析を行っています。本研究の目的は、小児AMLの新規バイオマーカーの同定であり、この研究の結果が小児AML患者の予後改善に寄与することを目標としています。
新生児グループでは、それぞれが日々の臨床診療のなかでの疑問点から研究テーマを見出し、様々な研究を行っています。大学院生として学位取得を目指す人もいます。臨床と研究の両立は大変ですが、研究を通して多角的な視点で疾患を捉えることが出来るようになり、それらを日々の診療に役立てることで早産や病気を持つ赤ちゃんのより良い予後を目指しています。
新生児早発型敗血症は未だ高い死亡率と重篤な後遺症を残す重要な疾患です。近年、基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌など、薬剤耐性大腸菌が世界的に増加傾向にあり新生児領域でも問題になっていますが、周産期領域における同菌の保菌率やその分子生物学的特徴についての情報は不十分です。私達は、薬剤耐性大腸菌の母児垂直感染の頻度や危険因子、病原菌の持つ病原性の特徴について県内の主要なNICUでの調査を行っています。母児感染の予防や早期治療の新たな戦略を模索し、予後改善につなげることを目標としています。
ヘプシジンとは肝で合成されるペプチドで、腸管や組織球などに作用して鉄過剰を抑制します。鉄は人体に必須の微量元素である一方、過剰状態では組織障害を引き起こすことが知られており、低出生体重児ではその未熟性のために遊離鉄による組織障害を受けやすいとされています。しかしこれまで、低出生体重児におけるヘプシジンの産生はあまり検討されておらず、未熟性によるヘプシジン産生能の低下が懸念されるものの、その影響は明らかになっていませんでした。そこで私たちは、ヘプシジンを含む鉄代謝に関連する複数の因子について検討を行い、早い在胎週数であるほどヘプシジンが低値となりやすく、ヘプシジンの低下による鉄過剰に留意すべきであることを明らかにしました。
胎児からの連続である新生児の領域は、小児科の中でも特に成人と大きく異なります。そのためまだ分かっていないことも多く、研究の宝庫と言えます。様々な研究で得られた知見を基に、自分たちで診療した赤ちゃんが目覚ましい速度で成長していく姿をみることで、医師として極上の喜びを感じてみませんか?
基礎研究
小児期発症の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)は、成人と異なる臨床像を持ち、また、潰瘍性大腸炎・クローン病どちらとも診断の困難な「分類不能型腸炎」と呼ばれる患者さんも少なくありません。当グループでは、初発の炎症性腸疾患患者を対象に血清サイトカインプロファイルを分析し、その違いを検討することで、将来的には、症状や内視鏡所見だけでは判別困難な両疾患の鑑別に役立てることを目標とした研究を行っています。
炎症性腸疾患の患者さんの中でも、とくに6歳未満で発症する方は、遺伝子異常などを有する頻度が高く、免疫異常を背景として難治の経過を取ることが少なくないことが知られています。本研究では国立成育医療研究センター・順天堂大学と共同で、国内の未診断の難治な超早期発症炎症性腸疾患患者を対象としたレジストリシステムを構築するとともに、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析・機能解析を組み合わせた新規遺伝子の発見・探索およびその機能の解析を行っています。
ヒト気道上皮細胞からのムチン産生は、気道感染や慢性呼吸器疾患において重要な役割を果たしています。私達は、ムチンを構成する主要タンパク質の中でも特にMUC5ACに着目して、その産生機構の分子メカニズムの解明に取り組んでいます。これまでにサイトカインとウイルス感染による相乗的発現の分子機構(J Immunol 2009)、ステロイドによる抑制機構(Allergol Int 2012)、インターフェロンによる抑制機構(Allergol Int 2017)などを明らかにしてきました。近年は酸化ストレスによるMUC5ACの発現における自然免疫系の関わりについての研究をすすめており、先日その成果を発表いたしました(FASEB Bioadv 2023)。小児は成人に比べ気道分泌が多いと言われています。私達の基礎的検討が、小児の気道疾患の治療開発の糸口になることを願っています。
新生児にアレルギー疾患の診断には、直接アレルゲンを負荷する試験が大変重要ですが、ときにそのような負荷は重篤な反応を引き起こす事があるため、それを回避するなどの目的で補助的な in vitro検査が利用されています。私達は、特に新生児から乳児のIgEに依存しないミルクアレルギーである非IgE依存性新生児乳児消化管アレルギーの補助診断に着目し、新規試験法を開発し特許を取得しています(特許第6628178号)。また、同疾患の重症度分類を初めて提唱しました(Allergol Int 2019)。また、患児のリンパ球を刺激するとIL-2R遺伝子(Allergol Int 2020)や、LRRC32遺伝子(Yale J Biol Med 2020)の発現が増加することを見いだし、疾患の病態の一端を明らかにしました。現在も、非IgE依存性消化管アレルギーに着目し、前向き多施設共同研究にて、診断の開発、病態の解明に取り組んでいます。
《代表的論文》
・Nishida Y, Yagi H, Ota M, Tanaka A, Sato K, Inoue T, Yamada S, Arakawa N, Ishige T, Kobayashi Y, Arakawa H, Takizawa T. Oxidative stress induces MUC5AC expression through mitochondrial damage-dependent STING signaling in human bronchial epithelial cells. FASEB Bioadv. 2023 Feb 17;5(4):171-181.
・Arakawa N, Yagi H, Shimizu M, Shigeta D, Shimizu A, Nomura S, Takizawa T, Yamada Y. Dupilumab Leads to Clinical Improvements including the Acquisition of Tolerance to Causative Foods in Non-Eosinophilic Esophagitis Eosinophilic Gastrointestinal Disorders. Biomolecules. 2023 Jan 5;13(1):112.
・Yagi H, Takizawa T, Sato K, Inoue T, Nishida Y, Yamada S, et al. Interleukin 2 receptor-alpha expression after lymphocyte stimulation for non-IgE-mediated gastrointestinal food allergies. Allergol Int. 2020;69(2):287-9.
・Yagi H, Sato K, Arakawa N, Inoue T, Nishida Y, Yamada S, et al. Expression of Leucine-rich Repeat-containing Protein 32 Following Lymphocyte Stimulation in Patients with Non-IgE-mediated Gastrointestinal Food Allergies. Yale J Biol Med. 2020;93(5):645-55.
・Ota M, Nishida Y, Yagi H, Sato K, Yamada S, Arakawa H, et al. Regional differences in the prevalence of oral allergy syndrome among Japanese children: A questionnaire-based survey. Asian Pac J Allergy Immunol. 2020.
・Yagi H, Takizawa T, Sato K, Inoue T, Nishida Y, Ishige T, et al. Severity scales of non-IgE-mediated gastrointestinal food allergies in neonates and infants. Allergol Int. 2019;68(2):178-84.
・Oyanagi T, Takizawa T, Aizawa A, Solongo O, Yagi H, Nishida Y, Koyama H, Saitoh A, Arakawa H. Suppression of MUC5AC expression in human bronchial epithelial cells by interferon-gamma. Allergol Int. 2017;66(1):75-82.
・Hagiwara S, Mochizuki H, Muramatsu R, Koyama H, Yagi H, Nishida Y, Kobayashi T, Sakamoto N, Takizawa T, Arakawa H. Reference values for Japanese children’s respiratory resistance using the LMS method. Allergol Int. 2014;63(1):113-9.
・Takami S, Mizuno T, Oyanagi T, Tadaki H, Suzuki T, Muramatsu K, Takizawa T, Arakawa H. Glucocorticoids inhibit MUC5AC production induced by transforming growth factor-alpha in human respiratory cells. Allergol Int. 2012;61(3):451-9.
クロマチン核内配置と遺伝子発現制御の関連の解明(滝沢、荒川直)
マウスの神経細胞を用いて、分化や機能に関わる遺伝子発現と遺伝子の細胞核内での空間配置との関連を、DNA FISH法やChromosome Conformation Capture法などの技術を用いて検討しています。マウス神経幹細胞からのアストロサイト分化の際に、アストロサイト特異的遺伝子Gfapの遺伝子座と物理的に会合する遺伝子を網羅的に探索し、そのメカニズムと意義を明らかにしました(Sci Rep 2016, Mol Biol Cell 2018, Front Genet 2018)。また、ニューロンにおける活動依存性の遺伝子発現の際に、クロマチンH1が、PolyADPリボシル化されhyper dynamicな状態になることが適切な遺伝子発現に重要であることをfluorescence recovery after photobleaching(FRAP)などの手法を用いて解明しました(J Cell Biol 2018)。神経前駆細胞からニューロンへと運命づけられた細胞が、最終分裂終了後に成熟ニューロンとなる過程で発現が増加する遺伝子群のスクリーニングから、特定の染色体領域にある遺伝子群は、発現が増加しつつ細胞核の内側へ移動することを見いだしました。更にそのメカニズムとして、細胞核の核膜を裏打ちする構造であるラミンを構成する蛋白質Lamin B1の発現が、ニューロン成熟に伴い低下することが需要であることを明らかにしました(Neurosci Res 2021)。現在は、発達障がいとクロマチン空間配置との関連について検討しています。
《代表的論文》
・Noguchi A, Ito K, Uosaki Y, Ideta-Otsuka M, Igarashi K, Nakashima H, Kakizaki T, Kaneda R, Uosaki H, Yanagawa Y, Nakashima K, Arakawa H, Takizawa T. Decreased Lamin B1 Levels Affect Gene Positioning and Expression in Postmitotic Neurons. Neurosci Res. 2021.
・Ito K, Takizawa T. Nuclear Architecture in the Nervous System: Development, Function, and Neurodevelopmental Diseases. Front Genet. 2018;9:308.
・Ito K, Noguchi A, Uosaki Y, Taga T, Arakawa H, Takizawa T. Gfap and Osmr regulation by BRG1 and STAT3 via interchromosomal gene clustering in astrocytes. Mol Biol Cell. 2018;29(2):209-19.
・Azad GK, Ito K, Sailaja BS, Biran A, Nissim-Rafinia M, Yamada Y, Brown DT, Takizawa T, Meshorer E. PARP1-dependent eviction of the linker histone H1 mediates immediate early gene expression during neuronal activation. J Cell Biol. 2018;217(2):473-81.
・Ito K, Sanosaka T, Igarashi K, Ideta-Otsuka M, Aizawa A, Uosaki Y, Noguchi A, Arakawa H, Nakashima K, Takizawa T. Identification of genes associated with the astrocyte-specific gene Gfap during astrocyte differentiation. Sci Rep. 2016;6:23903.
・Sailaja BS, Takizawa T, Meshorer E. Chromatin immunoprecipitation in mouse hippocampal cells and tissues. Methods Mol Biol. 2012;809:353-64.
・Takizawa T, Meshorer E. Chromatin and nuclear architecture in the nervous system. Trends Neurosci. 2008;31(7):343-52.
・Takizawa T, Meaburn KJ, Misteli T. The meaning of gene positioning. Cell. 2008;135(1):9-13.
・Takizawa T, Gudla PR, Guo L, Lockett S, Misteli T. Allele-specific nuclear positioning of the monoallelically expressed astrocyte marker GFAP. Genes Dev. 2008;22(4):489-98.
・Takizawa T, Ochiai W, Nakashima K, Taga T. Enhanced gene activation by Notch and BMP signaling cross-talk. Nucleic Acids Res. 2003;31(19):5723-31.
・Takizawa T, Yanagisawa M, Ochiai W, Yasukawa K, Ishiguro T, Nakashima K, et al. Directly linked soluble IL-6 receptor-IL-6 fusion protein induces astrocyte differentiation from neuroepithelial cells via activation of STAT3. Cytokine. 2001;13(5):272-9.
・Takizawa T, Nakashima K, Namihira M, Ochiai W, Uemura A, Yanagisawa M, et al. DNA methylation is a critical cell-intrinsic determinant of astrocyte differentiation in the fetal brain. Dev Cell. 2001;1(6):749-58.
・Nakashima K, Takizawa T, Ochiai W, Yanagisawa M, Hisatsune T, Nakafuku M, et al. BMP2-mediated alteration in the developmental pathway of fetal mouse brain cells from neurogenesis to astrocytogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98(10):5868-73.